こんにちは、ビバエルの代表カウンセラーのオリガです。
更年期の症状でご相談に来られる方から、
「更年期かどうか、血液検査で調べてほしい」
「念のため、ホルモンを全部測ってほしい」
「他にも悪いところがないか、いろいろ検査しておきたい」
こんな要望をよくいただきます。
不安なときほど、「とにかく検査をすれば安心できる」と思ってしまうのは、ごく自然なことです。
でも、更年期医療において、「検査をたくさんすること」と「正しく診断すること」は、まったく別物です。
そして、これは私個人の意見ではなく、国内外の診療ガイドラインが共通して示している考え方でもあります。今日は、その「検査の考え方」を、根拠とともに、ていねいにお話しします。
更年期の診断は、ホルモン検査では決まらない
意外に思われるかもしれませんが、世界の標準的な考え方では、更年期(更年期障害)の診断は、ホルモン値の数字ではなく「症状」をもとに行います。
日本のガイドラインが言っていること
日本産科婦人科学会の『産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編2020』には、こう書かれています。
エストラジオール(E2)や卵胞刺激ホルモン(FSH)の血清濃度は、閉経の約2年後まで大きく変動するため、更年期症状が起こりやすい閉経前後の時期には、これらの測定は診断上必ずしも有用ではない――。つまり、月経周期の変動から卵巣機能の低下を推定し、ホルモン測定はあくまで「参考にとどめるべき」とされているのです。1
海外のガイドラインも同じ結論
イギリスの公的ガイドライン(NICE)は、さらに踏み込んでいます。45歳以上で更年期症状がある女性は、確認のための血液検査を行わず、症状だけで診断してよい、としているのです。
その理由は明確です。FSHの値は変動が大きく、症状の重さ・続く期間・治療が必要かどうかと相関しない。だから検査をしても、治療方針を決める助けにならない。FSH検査が意味を持つのは、40〜45歳で月経の変化を伴う場合や、40歳未満で早すぎる閉経が疑われる場合など、限られたケースだけ、とされています。2
なぜ「数字で白黒つけられない」のか
ホルモンの値は「日によっても、その時の周期によっても、大きく揺れる」からです。
特に40代後半になると、排卵を伴わない月経が増え、「卵胞期 → 排卵期 → 黄体期」という規則的なリズムそのものが崩れていきます。だから、ある日の一度の採血だけで「あなたは更年期です/違います」と線を引くことは、そもそも難しいのです。
更年期は閉経前後10年といわれますが、実際、閉経が確定するのは「12か月以上、月経が来なかった」とき。つまり、後から振り返って初めてわかるものなのです。
診断の主役は「ていねいな問診」
では、診断の主役は何かというと、それは、ていねいな問診です。
日本では SMI(簡略更年期指数) という質問票がよく使われます。これはもともと欧米でつくられたクッパーマン指数が日本人女性に合いにくかったため、日本人向けに開発された評価方法で、症状の程度を点数化して、生活指導や治療の目安にします。3
「数字で白黒つける」のではなく、「あなたの症状と経過を、じっくり聴く」。これが、更年期診断の本来の姿なのです。
では、検査は何のためにあるのか ―― 「足し算」ではなく「引き算」
ここまで読んで、「じゃあ、検査はいらないの?」と思われたかもしれません。
そうではありません。検査には、とても大切な役割があります。ただし、その目的は、多くの方がイメージするものとは少し違います。
更年期医療における検査のいちばん大事な役割は、「更年期であることを証明する」ことではなく、「更年期によく似た“別の病気”を見逃さないこと」 です。
更年期と見分けがつきづらい病気
たとえば、こんな症状を思い浮かべてみてください。
疲れやすい。動悸がする。眠れない。気分が沈む。汗をかきやすい。集中できない――。
これらはすべて更年期の代表的な症状ですが、実はまったく同じような症状が、次のような病気でも起こります。4
🦋 甲状腺の病気(機能亢進症・低下症)
甲状腺機能亢進症では、動悸・発汗・手の震え・集中力の低下といった、更年期とそっくりの症状が現れます。低下症ではむくみ・冷え・気分の落ち込み・疲労感が出ます。女性に多く、更年期世代と重なりやすい病気です。
🩸 貧血
鉄不足による貧血は、疲れやすさ・めまい・動悸といったよく知られた症状のほか、集中力の低下、イライラ、気分の落ち込みといった、あまり知られていない症状も引き起こします。これらは更年期症状と見分けがつきにくい代表格です。しかも更年期は月経不順で出血量が増えることもあり、貧血を伴いやすい時期。症状が似ているだけでなく、更年期と貧血が実際に重なっていることも少なくありません。
🧠 うつ病・気分の不調
気分の落ち込み、意欲の低下、不眠は、更年期でも起こりうる症状です。これらは、うつ病に特有な症状である場合もあれば、更年期による気分の波や不調として現れる場合もあります。両者は見分けがつきにくく、重なっていることも少なくありません。
もしこれらを「更年期だから」と思い込んで放置してしまえば、本来きちんと治療できる病気を見逃すことになりかねません。
これを「除外診断」と呼びます
だからこそ、必要に応じて甲状腺ホルモンや貧血の血液検査を行い、こうした病気を一つひとつ除外していきます。そうして「他の原因ではなさそうだ」と確認できて初めて、自信を持って「更年期の症状ですね」と診断できるのです。
検査は、可能性を“足していく”ためではなく、“引いていく”ために使う。これが、更年期医療における検査の正しい考え方です。
「検査すればするほど安心」ではない
もう一つ、知っておいていただきたいことがあります。
「念のため、たくさん検査しておこう」が、必ずしも良いとは限らない、ということです。
日本は、世界的に見ても「検査が多い国」です。たとえばCTやMRIの保有台数は人口あたりで世界トップクラスで、日本のCTは人口100万人あたり約107台。G7平均の約25台を大きく上回ります。5
これは日本の外来医療が「出来高払い(検査や処置をするほど医療機関の収入が増える仕組み)」であることとも関係しています。6
だからこそ、受ける側の私たちが、「この検査は、何のために受けるのか」を理解しておくことが、とても大切になります。目的のわからない検査をやみくもに重ねれば、お金も時間もかかります。場合によっては、わずかな異常値に振り回されて、かえって不安が増えてしまうこともあるのです。
では、何を指針にすればいいのか
ここまでをふまえると、更年期世代の検査の考え方は、とてもシンプルに整理できます。
① 土台は「年に一度の健康診断」
まず基本になるのは、年に一度の健康診断です。血液検査・血圧・がん検診など、基本的な項目をきちんと受けて、そこで大きな異常がなければ、過剰に心配して特別な検査を足す必要はありません。
「年1回の健康診断を受けておく」 ――これが、出発点になるスタンスです。
② 閉経は「これからの健康」を考える節目
そのうえで、閉経は「これからの10年・20年の健康」を考える大切な節目でもあります。エストロゲンによる体の保護が外れることで、骨や血管のリスクが変わってくるからです。だからこの時期は、「今つらい症状を調べる検査」だけでなく、「これからのリスクに備える検査」も意識しておきたいタイミングなのです。
③ 「不安だから全部」ではなく「目的を理解して」
こうした検査は、「不安だから全部」ではなく、「必要な人が、必要なタイミングで、目的を理解して受ける」もの。
それが、お金と時間を無駄にせず、本当に自分の体を守る検査の受け方です。
40代以上の女性が、受けておきたい検査
自分が受けている検査の中に必要な項目が入っているか心配。そう思った方のために、40代以上の女性に意識してほしい検査を整理しておきます。
一般的な健康診断や人間ドックの「基本コース」は、もともと働く男性を中心に設計されてきた歴史があります。そのため、女性特有の健康に関する項目は、基本コースに含まれず「オプション扱い」になっていることが少なくありません。
女性は乳がん・子宮頸がん・骨密度といった項目を、自分で意識して“足す” 必要があります。「フルコースを受けたから安心」ではなく、「女性に必要な項目が入っているか」を確認することが大切です。
受けておきたい検査リスト
① 生活習慣病の基本(特定健診)
体重、血圧、血糖、脂質(コレステロール・中性脂肪)、肝・腎機能など。40歳以上は「特定健診」の対象です。閉経が近づくにつれてコレステロールが上がりやすいため、脂質は要チェックです。
② 乳がん検診(マンモグラフィ+乳房超音波)
乳がんの罹患率は40代後半に最初のピークを迎えます。マンモグラフィと超音波は「見ているものが違う」ため、両方受けられると安心です。8
③ 子宮頸がん検診
2年に1回の子宮頸部細胞診(必要に応じてHPV検査)が基本です。
④ 骨密度測定(DEXAなど)
女性の骨量は40代半ばから減りはじめ、閉経後に急減します。早めに自分の「今の骨の状態」を知っておくことが、将来の骨粗鬆症対策の出発点になります。7
⑤ 甲状腺機能(TSH・T3・T4)
疲れやすさ・むくみ・動悸・気分の落ち込みなど、更年期とよく似た症状を出す甲状腺の病気は女性に多いもの。気になる症状があるときは、血液検査で確認しておきたい項目です。
⑥ 貧血・貯蔵鉄(フェリチン)
月経や更年期の不正出血で、女性は鉄が不足しがちです。一般的な貧血検査に加え、体の鉄の蓄えを示すフェリチンまで見ておくと、疲れやすさの本当の原因が見えてくることがあります。
これをすべてを毎年やっていないとダメということでもありません。大切なのは、自分の年齢・体質・症状に合わせて、必要な項目を、目的を理解して選ぶこと です。
🌿 ビバエルからのご案内
ビバエルはオンライン診療を中心としたクリニックのため、検査そのものをこちらで実施することはありません。
でも、だからこそ私たちが大切にしているのは、「あなたにとって本当に必要な検査は何か」「それは何のための検査なのか」を、一緒に整理してご案内すること です。
「この症状、検査した方がいいですか?」「健診でこの数値が出たけれど、どう考えればいい?」「更年期だと思っていたけれど、他の病気の可能性は?」
こうした問いに、根拠をもとにていねいにお答えし、必要があれば適切な検査や受診先へおつなぎする。そして、その結果を日々の生活や治療にどう生かすかまで、伴走してサポートする。それがビバエルの役割だと考えています。
「更年期だから仕方ない」でも、「とにかく全部検査して安心」でもなく、必要なことを、納得して選ぶ。 そんな更年期の過ごし方を、私たちと一緒に見つけていきましょう。
気になることがあれば、どうぞお気軽にビバエルにご相談ください。
出典
- 日本産科婦人科学会『産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編2020』(更年期障害の診断におけるE2・FSH測定の位置づけ)。解説として、日経メディカル「更年期障害」ガイドライン解説 https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/series/guideline/202205/575067.html
- NICE(英国国立医療技術評価機構)ガイドライン NG23「Menopause: identification and management」 https://www.nice.org.uk/guidance/ng23/chapter/recommendations
- SMI(簡略更年期指数)について:ナース専科「SMIスコア(簡略更年期指数)」 https://knowledge.nurse-senka.jp/501010
- 更年期障害と紛らわしい甲状腺疾患など、鑑別が必要な疾患について:ドクターズ・ファイル「更年期障害と勘違いされやすい女性に多い甲状腺疾患について」 https://doctorsfile.jp/h/190229/mt/1/
- 日本のCT・MRI保有台数の国際比較:ラボコート「日本のCT・MRI・PET保有数は世界何位?」 https://labcoat.jp/world-ranking-for-ct-mri-pet/
- 日本の出来高払いと検査過剰の構造:東洋経済オンライン「過剰医療大国ニッポンの不都合すぎる真実」 https://toyokeizai.net/articles/-/221458 / 財務省「ケアの現場で陥りやすい過剰・過少医療を減らすために」 https://www.mof.go.jp/pri/publication/financial_review/fr_list8/r148/r148_05.pdf
- 骨密度スクリーニングの推奨:日本内分泌学会「閉経後骨粗鬆症」 https://www.j-endo.jp/modules/patient/index.php?content_id=51 / USPSTFの推奨(65歳以上の全女性)について:ケアネット https://www.carenet.com/news/general/hdn/60039
- 40代以上の女性に推奨される検査項目(乳がん・子宮がん検診、骨密度ほか)、および人間ドックの基本コースで女性特有の項目がオプション扱いになりがちな点について:同友会グループ「症状別おすすめオプション検査」 https://www.do-yukai.com/kenshin/osusume.html / アイセイ薬局 HELiCO「年代別・健康診断『オプション』の選び方〜女性編〜」 https://helico.life/monthly/230708healthcheck-option-forwomen/